月下の誓約
昼一に軍議は始まった。
情報処理部隊長の報告によると、東と南に国境を接する灘元国と浦部国が冬の間から頻繁に行き来をしているという。
秋津島で一、二を争うこの二つの大国は、元々大変仲が悪い。
隣同士で絶えず戦を繰り返しては、時々腹いせに杉森にちょっかいを出してくる。
そんな二国が争うことなく穏便に特使の行き来を続けているというのも、なんだか薄気味悪い。
薄気味悪いが目立った動きがない以上とりあえず静観する事となった。
「浜崎や沖見(おきみ)の様子はどうですか?」
和成の質問に情報処理部隊長が答える。
「沖見は先の戦での山西数馬の負傷により、主力部隊の統制がとれてないようで、冬の間隣の灘元と小競り合いはあったようですが、本調子ではない様子です。現在はおとなしくしています。浜崎はあれ以来沈黙しています。冬に国境で何を画策していたのかは不明のままですが、どうやらそれに対して大きな打撃を与えてしまったようですね」
「そうですか。私が暴れたのも無駄ではなかったのなら幸いです」
和成がそう言うと部隊長たちは小さく笑い声を上げた。
その後は技術局からの要請による新型軍用無線電話の、実機での運用試験を兼ねた大規模な軍事演習の日程を決めて会議は終了した。