月下の誓約


 夕食後、和成は約束通り紗也の居室を訪れた。
 謁見の間に通され、一時間程話をして自室へ戻る。
 その足で風呂に行き、戻ると自室前の中庭へと降りる石段に腰掛け、中天にかかるぼんやり霞んだ月を見上げた。

 塔矢に言われた通り、視野を広げて考えてみる事にする。

 紗也にも塔矢にも誰にも嫌な思いはして欲しくない。
 当然、自分自身もしたくない。

 和成が紗也の想いを受け入れた場合、嫌な思いをするのは誰か。
 それは未知数だ。

 紗也と和成以外皆が嫌な思いをするかもしれないし、誰一人嫌な思いをしないで済むかもしれない。
 全ては和成の器量次第。

 塔矢は「かわいいよりはかなり男前になった」と言った。
 本当の意味はわからないが、中身が大人になったという意味だろうか。
 だとしたら、「殿と呼びたくない」と言われた当時より、少しは認めてもらえているのだろうか。
 しかし、全ては憶測でしかない。

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