月下の誓約


 和成は電話を懐にしまうと少し逡巡した後、一旦自室に戻り缶に入った果汁飲料と酒を持って紗也の居室へ向かう。

 渡り廊下を越えて、長い廊下を歩いていると庭から声が聞こえた。


「和成ーっ。こっちこっち」


 声のする方に目をやれば、庭に設置された机と長椅子の横で手を振る笑顔の紗也が見える。

 和成は廊下から庭に降りて、紗也の元へ向かった。
 庭にいたのは紗也ひとりだけだ。
 和成は辺りを見回して尋ねる。


「女官たちはどこかに行ってるんですか?」
「明日早いから、もう下がらせたの」
「じゃあ、自分で持ってきて正解でしたね」


 和成はそう言って酒瓶を掲げて見せた。
 そして缶の果汁飲料を紗也に差し出す。

< 549 / 623 >

この作品をシェア

pagetop