月下の誓約
「はい、どうぞ。紗也様のお好きなブドウ味です」
「わーい。うれしー」
喜んで飛びついた缶を眺めて、紗也は不服そうに目を細くした。
「ちょっと。また私はお酒じゃないの?」
「あたりまえです。もうすぐ十九歳ですよね。あと一年お待ち下さい。そうしたら一緒に月見酒を飲みましょう」
「も〜ぉ。堅いんだから」
紗也はふてくされたように長椅子に座り、缶のフタを開ける。
和成は少し笑って紗也の隣に腰掛けると、持ってきた湯飲みに酒を注いだ。
酒を一口飲んで目の前の桜に目を移す。
満月の光に照らされた満開の桜は、薄暗い庭の中にくっきりと白く浮かび上がっていた。
時折吹くやわらかな春の夜風に、薄桃色の花びらをちらほらと舞わせ幻想的な美しさをたたえている。