月下の誓約

 7.薄氷上の幸せ



 夜は深々と更けてゆく。
 和成は椅子の背にもたれ、少し西に傾きかけた月を眺めながら黙って酒を飲んでいた。

 自分のひざを枕に寝息を立てる紗也を見つめて少し笑う。


「ドキドキして眠くならないって、おっしゃったのはどなたでしたっけ?」


 そう言って紗也の鼻をちょっとつまんでみた。

 相変わらず熟睡した紗也はピクリとも動かない。

 気持ちが高ぶっていて本当はちっとも眠くないのだが、さすがに少しは眠っておかないと合戦中に居眠りしたら大変である。

 和成は紗也を抱き上げ、紗也の居室に向かった。

 君主の居室は城下の一般的な民家より、途方もなく広い。
 たくさんの部屋の中から寝室を探さなければならないのだ。
 和成が知っているのはその中の一室、謁見室だけだ。

 とりあえず謁見室の長椅子に紗也を寝かせて、一部屋ずつ覗いて回った。

< 557 / 623 >

この作品をシェア

pagetop