月下の誓約
不意打ちを食らって訳がわからず、打たれた頬を押さえながら和成は塔矢を睨んだ。
「なんなんですか、いったい」
塔矢は満足げに微笑む。
「正念場だからな。気合いを入れてやったんだ。紗也様を頼んだぞ」
そう言ってさっさと馬に乗り、前庭を駆け抜けて城を出て行った。
頬を押さえたまま呆然と見送る和成の横で紗也が足を踏みならす。
「んもう! なんなのよ、塔矢ったら!」
「よくわかりません。私が浅慮なだけかもしれませんが、塔矢殿は計り知れない方なんです」
塔矢の立ち去った方向を呆然と見つめたまま和成はポツリとつぶやいた。
あまりに唐突すぎて、気合いが入ったかどうかは微妙だった。