月下の誓約
「慎平、頼む」
和成はそう言って立ち上がり、刀を掴んで窓に駆け寄る。
一気に窓を開け放ち、そのままそこから外へ飛び出した。
閃く雷光が闇の中に走り去る刺客の姿を浮かび上がらせる。
少し遅れて雷鳴が轟いた。
俊足の和成はすぐに追いつくと鞘を打ち捨て、背中から斬りつける。
刺客の男は声を上げて、激しく雨の打ち付けるぬかるんだ地面に倒れ込んだ。
肩に担いだ矢筒が落ちて、矢がバラバラと男の周りに散らばる。
和成は大股で歩み寄り、うつ伏せで苦しそうに呻いている男の身体を、足の先で蹴って仰向けに返した。
腰に差した小刀を抜こうと伸ばした男の手を、和成は腹の上で思い切り踏みつける。
思わず声を上げた男の腰から小刀を引き抜き後ろへ放り投げると、身体をかがめて泥水で汚れた顔を覗き込んだ。
「ひとの女、目の前で手にかけておいて逃げられると思ってたわけ?」
再び閃いた雷光が、和成の顔を照らし出す。
その瞳には憎しみの炎を宿し、冷酷な薄笑いを浮かべていた。