月下の誓約


 慎平の叫び声で和成は、ピタリと動きを止める。

 男の身体から刀を引き抜き、ゆっくりと振り返った和成の顔は意外なほど穏やかな表情をしていた。
 それがかえって慎平を不安な気持ちにさせる。

 男の骸を背にして和成は慎平に問いかけた。


「紗也様は?」


 慎平はつらそうに目を伏せると、力なく首を横に振る。


「……和成殿が飛び出して行った時にはすでに息がありませんでした。即死だったようです。隊長がほとんど苦しむ事はなかっただろうと……」

「そうか……。さすが刺客ってとこか。案外いい腕してたんだな、あいつ……」


 まるで他人事のように冷静に分析する和成に違和感を覚えながらも、慎平はかける言葉を見つけられず、ただ黙って俯いた。

 雨は更に激しさを増す。

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