月下の誓約
その声と頬から滲み出た血に、和成はハッとしたように動きを止めた。
一瞬力の弛んだ和成の手から、慎平は刀をもぎ取って後ろへ飛び退く。
和成は呆然と慎平を見つめた後、力が抜けたようにその場にひざをついて、そのまま座り込んだ。
そして、救いを求めるように空を仰ぐ。
月は見えない。
暗い空から、見上げた顔を叩きつけるように激しい雨が降りしきる。
初めて人を、憎くて殺してやりたいと思った。
その気持ちに従い人を殺め、憎しみのままに遺体を蹂躙した。
そんなどす黒い感情をかかえて血に染まった和成を、月の光は清めてはくれないのだろう。
和成は空から視線を戻すと、背中を丸めて項垂れた。
慎平は投げ捨てられていた鞘を拾い、刀を収めて和成に声をかける。
「司令所に戻りましょう。戦はまだ終わっていません」
「……そうだったな……」
和成は力なく答えて、のろのろと立ち上がった。
そして二、三回頭を振ると、正面を見据えて何事もなかったかのようにスタスタと司令所へ歩いていく。
和成の様子の変わりように、慎平は少し戸惑いながらも彼の後について司令所に戻った。