月下の誓約
そして紗也の髪をなでる。
「最後まで私の言う事は聞いて下さらないのですね。無事に戦を終えて結婚しようと約束したではないですか」
和成は静かに微笑みながら、紗也の髪や頬をなで続ける。
「私が誓ったんです。あなたを一生お守りすると。これでは逆です。あなたに守っていただくなど、護衛の私の立場がないではないですか」
少しして紗也から手を離し、白い布を元通り顔の上に掛けた。
「じきにそちらへお伺いします。もう少しお待ち下さい」
紗也の死を未だに受け入れられずにいるのか、こうして冷たく動かない紗也を見て、触れて、それでも涙が出て来ない。
焼け付くほどの深い悲しみを身の内に抱えながら、反応を示さない薄情な我が身を呪った。
”戦が終わったら”そう言ったのは和成だ。
あの言い伝えが本当なら、命を奪われるのは和成の方なのに。
和成は生き残り、代わりに命よりも大切だと思えるものを奪われた。
紗也の眠る寝台が見える窓際にすがって、和成は床に座り込む。
間断なく降り続ける雨音だけが、部屋の中に聞こえていた。