月下の誓約
部屋付きの女官は多少武術の心得のあるものが務めているので、夜間誰もいなくなるのは物騒だと女官長は難色を示した。
すると紗也は護衛の和成が一緒だから大丈夫だと言う。
女官長が夜に男性を自室に招き入れるという事が何を意味するのかわかっているのかと問いかけたところ、和成を伴侶として迎えるつもりなので、和成が求めるなら応じると答えたらしい。
女官長としては正式な結婚の前に深い間柄になるのはよしとしないのだが、翌日から戦が始まり、いつ終わるともわからない上に、和成は軍人なので戦に出れば命を落とさないとも限らない。
いつ正式な婚儀が執り行えるかわからないので、紗也の意を汲み、事実婚という形で了承した。
とはいえ、女官長の一存で決めるわけにもいかない。
そこで、紗也の補佐官であり、和成の上官でもある塔矢に問い合わせたのだ。
塔矢はその時、すでに紗也から和成に結婚を申し込むという話を聞いていたので、女官長には紗也の意思を尊重すると告げた。
「おまえはあの夜、紗也様と結婚した事になってるんだ」
話を聞いて和成はピンと来た事があった。
「あ、もしかしてあの朝の気合いの一発って、私と紗也様が一夜を共にしたからですか?」