月下の誓約


 塔矢はニヤリと笑って腕を組む。


「父親としては、娘を奪った男は一発殴っとかないとな」


 和成はガックリと肩を落とした。


「殴られ損じゃないですか。何もしてないのに」
「本当に何もしてないのか?」


 塔矢が疑わしげに和成を見つめる。
 ウソがつけずに和成はポロリと白状する。


「う……、すみません。口づけしました」
「それから?」
「それだけです。あとは朝まで手をつないで眠りました」


 塔矢は少しの間探るように和成を見つめた後、問いかけた。


「やり方がわからないとか言うんじゃないだろうな」
「やり方がわからないのは切腹です。今度こそ教えて下さいよ」


 顔をしかめる和成に、塔矢は軽くため息をつく。


「そう死にたがるな。せっかく紗也様が助けて下さった命じゃないか」


 和成にはそれが一番つらかった。
 自分のために紗也は命を落としたのだ。

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