月下の誓約


 和成は必死で記憶をたぐり寄せた。
 何かを聞いたとしたらあの花見の夜だ。

 そして……。


「……あ! もしかして、あれ……」



「私の全部を和成にあげる」



 塔矢が和成を指差した。


「それだ。おまえ、下(しも)の意味でしか捉えてなかったんだろう」
「だってあの状況で言われたら、そんな重要な意味があるとは思えませんよ」


 それを聞いて、塔矢が興味深そうに問いかける。


「どんな状況だ?」
「……口づけの後です」


 塔矢は額に手を当て目を閉じた。


「下の事考えておきながら、どうして据え膳を据え置いたままにするんだか。だから未練が残るんだろう」

「そんな事言われても……」


 ふてくされたようにそっぽを向く和成を横目に、塔矢はひとつため息をつく。

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