月下の誓約
「結論から言えば、紗也様が選んだ男だからだ。紗也様の人を見る目をあのおやじ共は評価している。おまえは知らないだろうが、先代はその才に長けた方だった。その先代が選んだのがあの大臣たちだ。考えても見ろ。あの老練なおやじ共にかかれば紗也様のような小娘ひとたまりもないはずだ。謀反(むほん)を起こしてどこかに幽閉されるか、処刑されるか。或いは自分に都合のいい奴と結婚させて傀儡(かいらい)にしてしまうか。そうなってないのは先代に人を見る目があったからだ。大臣たちは先代を心底尊敬し、絶対的な信頼を寄せている。その娘である紗也様に対しても同様だ」
「塔矢殿も先代に選ばれたんですか?」
「俺は紗也様に選ばれた。当時七歳のな」
和成は納得して微笑んだ。
「あぁ、それで紗也様の人を見る目が評価されているんですね」
「他にもいるぞ。総務部長とか」
「私はてっきり、私を死なせないために塔矢殿が裏工作でもしたのかと思ってました」