月下の誓約
終章
秋津国建国からすでに四十年が経過していた。
今は三代目国王の治世である。
かつての杉森国、現杉森領を一望に見渡せる小高い丘の上に、杉森国歴代君主の墓所がある。
初夏の爽やかな風が吹き抜ける夜、一番新しい墓の前に一人の男が立っていた。
銀糸と見紛うほどのみごとな白髪を背中に垂らし、墓に向かって語りかける。
「昨日、塔矢殿が逝きました。もうお会いになりましたか? ずいぶんしわくちゃのおじいちゃんになってるので、すぐにはわからないかもしれませんね」
そう言って男はクスリと笑った。
「私も、もうじきお伺いすると思いますが、多分すぐにわかると思いますよ」
再び笑った男の顔を、雲間から姿を現した満月の光が明るく照らし出す。
煌めく銀色の髪を夜風になびかせて、月光に照らされたその顔は紗也と別れた時のまま少年のような和成の顔だった。
和成は髪を両手で掴んで苦笑する。
「髪は色が抜けてしまいましたけどね」
和成が伝説のように語り継がれているのは、偉業のためだけではない。
年を取らないその容姿が語り草となっていたのだ。
六十を過ぎた頃にはさすがに自分でも薄気味悪いので政治の表舞台から身を退いて、人目を避け山奥で隠遁生活を始めた。