月下の誓約
てっきり自分より二つ三つ年上なだけだろうと思っていた和成が、実は九才も年上で成人した立派な大人だと言う事を知り紗也は驚いた。
大人が子供の自分を相手に本気で口げんかすることが、また珍しかった。
紗也の護衛とはいえ、和成は常に紗也の側にいるわけではない。
紗也の側には杉森軍で最強と言われている塔矢がいるし、城内で護衛の必要はないからだ。
紗也は和成の反応がおもしろくて、和成に会うのが楽しくて、和成の休みの日以外は毎日他愛のないイタズラを繰り返した。
そして、その度に和成は紗也の元に怒鳴り込んできた。
最初は本気で和成を諫めた塔矢も、紗也が怒鳴り込んでくる和成を楽しみにしている事に気付き、形式的に注意はするものの、げんこつを落としたり、怒鳴りつけたりはしなくなった。
日に数回イタズラを繰り返すようになった紗也を、さすがに塔矢も見かねて注意する。
「紗也様、イタズラもほどほどになさいませ。和成にも仕事があるのです。せめて日に一回でお願いします」
紗也は思わずクスリと笑った。
(一回ならいいんだ)
和成が聞いたら一回でもダメだと怒りそうだが、塔矢は自分の楽しみを奪わないつもりらしい。
「はぁい」と素直に返事をして、それ以降紗也は塔矢の言いつけを忠実に守った。