月下の誓約
その日紗也は不安な気持ちを抱えて、執務室にひとりでいた。
つい先ほど、会議があると言って塔矢は部屋を出て行った。
たぶんもうばれているはず。
そろそろ和成が怒鳴り込んでくるだろう。
だが、今日はわくわくと楽しい気分ではなかった。
今日のは今までとは桁違いに悪質だと自分でもわかっている。
和成や他の者からしてみれば、質の悪いイタズラとしか思えないだろうが、イタズラのつもりは毛頭なかった。
和成の足音が近付いて来た。
紗也はいたたまれなくなり、席を立つと身を隠すように机の陰にしゃがみ込む。
「紗也様――っ!」
いつものように和成が怒鳴り込んできた。
その声に紗也は思わずビクリと身を硬くする。
「……あれ?」
誰もいない室内に拍子抜けして、和成が呆けたような声を漏らした。