月下の誓約


 そのまま出て行ってくれる事を祈りつつ、息を殺してじっと待つ。
 すると頭の上から声がした。


「何をなさってるんですか?」
「ひゃあぁっ!」


 飛び上がりそうなほど驚いて、紗也が思わず悲鳴を上げると、和成はたじろいで一歩退いた。


「なんなんですか、いったい」


 うろたえて怪訝な表情をする和成を振り返り、紗也は苦し紛れの言い訳をする。


「筆を落として、どこに行ったかわからなくなっちゃって……」
「筆なら机の上にありますけど」


 和成は目を細くして静かに指摘した。
 紗也は観念して立ち上がり、チラリと和成を見た後、黙って俯く。


「紗也様、どうして食堂の昼食用に仕入れた鳥を全部逃がしておしまいになったのですか?」


 静かに問いかける和成がいつもより怒っているように思えて、紗也はその顔を見る事ができず、俯いたまま答えた。


「……だって、全部殺しちゃうって言うから……」

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