月下の誓約


 朝、紗也が中庭を散歩していると、食堂の裏手に鳥の入ったカゴが運び込まれるのを目にした。

 生きた動物を間近で目にするのは珍しいので、紗也は駆け寄ってカゴの中の鳥を眺める。
 鳥の方も紗也が珍しいのか、覗き込む紗也に首を傾げて見つめ返した。

 その仕草が愛らしくて、紗也は思わず微笑む。

 鳥を運んできた業者は、紗也が君主だとは知らない。
 城に勤めている誰かの子供だとでも思ったのだろう。

 鳥を見つめて微笑む紗也に、苦笑を湛えて軽く告げた。

 その鳥にあまり情をかけない方がいい。昼までには殺されて君の口に入るのだからと。

 業者が帰った後、紗也はカゴのフタを開けて、中の鳥を全部逃がした。

 たくさんの羽音と鳥の鳴き声に気付いて、食堂の裏口から料理長が顔を出した時には、鳥は全て飛び立った後で、紗也も背を向けて走り去るところだった。

< 621 / 623 >

この作品をシェア

pagetop