月下の誓約
その様子を見て、和成は不思議そうに首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
「和成って、笑うとすごくかわいいのね」
目を輝かせて笑顔を向ける紗也を見つめて、和成は瞬時にいつもの不機嫌顔に戻る。
「やはり、私をからかっておいでなのですね。失礼します」
不愉快そうにそう言うと、和成は紗也に背を向けて執務室を出て行った。
ほめたつもりが何故怒らせたのか、紗也には理由がわからない。
そしてしばらく後、和成の笑顔を見た事のある者が城内にほとんどいない事を知った。
女官たちは女官長に至るまで誰ひとりとして見た事がないという。
紗也は改めて、ものすごい宝物を手に入れたような気がして嬉しくなった。
紗也が初めて、奇跡のような和成の笑顔を見たのは、和成が護衛官に就任して以来、実に九十日目の事だった。
(完)