月下の誓約


 その様子を見て、和成は不思議そうに首を傾げた。


「どうかなさいましたか?」
「和成って、笑うとすごくかわいいのね」


 目を輝かせて笑顔を向ける紗也を見つめて、和成は瞬時にいつもの不機嫌顔に戻る。


「やはり、私をからかっておいでなのですね。失礼します」


 不愉快そうにそう言うと、和成は紗也に背を向けて執務室を出て行った。

 ほめたつもりが何故怒らせたのか、紗也には理由がわからない。

 そしてしばらく後、和成の笑顔を見た事のある者が城内にほとんどいない事を知った。
 女官たちは女官長に至るまで誰ひとりとして見た事がないという。

 紗也は改めて、ものすごい宝物を手に入れたような気がして嬉しくなった。

 紗也が初めて、奇跡のような和成の笑顔を見たのは、和成が護衛官に就任して以来、実に九十日目の事だった。




(完)

< 623 / 623 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:31

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

王子様はパートタイム使い魔

総文字数/49,624

ファンタジー58ページ

表紙を見る
こちふかば

総文字数/7,375

ファンタジー11ページ

表紙を見る
クランベールに行ってきます
  • 書籍化作品

総文字数/163,835

ファンタジー199ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop