月下の誓約
(おかしい。あまりに遅すぎる)
和成が気付いた時にはすでに三十分以上が経過していた。
紗也が司令所を出たまま戻ってこないのだ。
気付いてから何度か電話をかけてみたが通じない。
あれほどお願いをしたのにどうして電源を切っているのだろうと苛つく。
無情に流れる不通の音声を聞きながら、ふと思い至った。
(もしかして電波の届かない場所に?)
嫌な予感と共に和成の鼓動は早くなる。
慌てて電算機の端末を操作し、紗也の電話の位置を追跡した。
画面の地図上に位置情報の履歴が表示される。
背中に冷水を浴びせられた様な気がした。
最後に確認された場所は、砦の外にある林を抜ける街道だった。
時間は七分前。
急いで追い付けるかどうか微妙な時間だ。
紗也の足ではそれほど遠くに行っていないとは思われるが。