月下の誓約
砦を出て少し行くと街道は紗也の消息が跡絶えた林の中へと入っていく。
林の中はすでに漆黒の闇に包まれていた。
街道はかなり先まで一本道だ。
時間的にもそろそろ追いつけるだろう。
外の世界が何もかも珍しい紗也が、道を外れて山の中に迷い込んでいない事を願うばかりだ。
和成は時々紗也の名を呼んだり電話をかけたりしながら街道を進んだ。
電話は相変わらず不通のままだ。
すでに日は落ちた。
山の中には夜行性の危険な獣もいる。
このあたりに敵の部隊は確認されていないが、単独で行動している斥候や兵士がいないとは限らない。
戦場を渡り歩いて、兵士の骸から金目のものを奪う不心得者も出没していると聞く。
獣に襲われるのも悲惨だが、もしも敵の手に落ちたら――。
紗也の事を君主だと思う者はいないだろう。
先代君主が身罷られた事と紗也が君主になった事は、対外的には極秘となっている。