月下の誓約


「見聞を広めるためよ」


 和成は一瞬絶句して、少し目を見開いた。


「それだけですか?」

「だって私、君主だもの。今あちこちで戦をしている事くらいは知ってるけど、城の中にいたんじゃよく分からないし。戦を知らずに政治は行えないから、実際に見て知っておきたいの」


 紗也が政治について学び始めたのは、ごく最近の事だ。

 先代亡き後、実際に政治を執り行ってきたのは、塔矢を含む先代からの忠臣たちで、紗也はほとんど政治に関わっていない。

 この忠臣たちは、皆有能な上に、紗也には激甘だ。
 困った事に、紗也もそれを熟知している。

 もっともらしい紗也の言葉に、彼女が政治に意欲を見せたとでも思ったのだろう。
 有頂天になって、あっさり丸め込まれたに違いない。

 和成に対してはニコリともしない大臣たちの、目尻を下げる様子が容易に想像できる。

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