月下の誓約

 7.戦の現実



 一歩一歩がもどかしいほどに和成の周りだけ時の流れが遅く感じられた。

 間に合わなければ我が身を盾とするつもりで、紗也と敵兵の間に滑り込み刀を構える。
 間一髪で敵兵の刀を受け止めることができた。

 そのまま紗也に言う。


「お下がり下さい」


 紗也は黙って、二、三歩後ずさりした。

 和成との力量の差を無意識に感じ取ったのか、怯えたような表情で敵兵は見つめる。
 無表情のまま安々と相手の刀をはじき飛ばした和成は、返す刀で首筋から脇腹にかけて袈裟懸けに斬り付けた。

 首筋から吹き出した生暖かい鮮血が、和成の顔を、胸元を、腕を赤く染め上げていく。
 目に飛び込んだ血の滴が視界を赤い帳(とばり)に包んだ。

 敵兵が声もなくその場に崩れ落ちた時、和成の背後で紗也の小さな悲鳴が聞こえた。

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