月下の誓約
「これのせいですよ。あなたが彼の敵だからです」
未だに困惑した表情をしている紗也に、和成は冷酷に告げる。
「ご自身が身を以て体験なさっても、まだご理解いただけませんか? 知らない者同士が個人的には何の理由も恨みもなく殺し合う。それこそ、あなたが御覧になりたいとおっしゃった戦の現実の姿なんですよ」
紗也は泣きそうな顔で、よろよろと後ずさりをした。
そして背中が後ろの木に突き当たると、その場にしゃがみ込んでひざの上に顔を伏せた。
自分が戦場にいることを、あまりにも理解していない様子に苛立って、きつく言い過ぎた事を和成は少し後悔した。
今まで城から出たこともなく戦とは無縁だった紗也にとって、頭ではわかっていても現実を理解できないのは無理もないのだ。
自身の気持ちを落ち着かせるためにも紗也をそっとしたまま、電話で塔矢と司令所に連絡を入れる。