月下の誓約
そして、まだ顔を伏せてしゃがみ込んでいる紗也に頭を下げた。
「また、怒鳴ってしまいました。申し訳ありません。とにかく今は本陣にお戻り下さい。皆が心配しております」
しばらく頭を下げたまま待ってみたが、紗也は動こうとしないし返事もない。
和成は顔を上げて口の端に微かな笑みを浮かべた。
「私が、怖いですか?」
紗也が少しだけ顔を上げ、和成を見つめる。
青白い月明かりを浴びて、乾いた血がこびりついたままの、汚れた和成の顔は紗也にとって確かに怖かった。
少し視線を落として、和成は静かに続ける。
「私を人殺しだとおっしゃるなら、確かにその通りですけどね。これが初めてでもありませんし、今まで何人斬ったかさえも覚えてはおりません。私は軍人なので戦場で敵兵を斬った事を間違いだとは思ってませんが、人を斬るのが好きで斬った事は一度もないんですよ」