月下の誓約


「両手離しでも乗れますけど」
「じゃあ、問題ないじゃない。ほら、ここのとこ支えてて」


 そう言うと紗也は和成の左手をとって自分の腹にあてがった。

 手の平に伝わる温もりに、和成の鼓動が跳ねる。
 一瞬、身体が硬直したものの、すぐに心は冷静さを取り戻した。

 紗也は和成の事を男だと認識していないのか、それとも単に無防備なだけなのか。

 どちらにせよ、それに一々狼狽している自分が馬鹿らしく思えてきたのだ。


「では、今度こそ頭を低くして下さい」


 右手で手綱を握り直し、和成は再び馬を走らせた。
 今度は紗也もおとなしく乗っている。

 和成はなるべく紗也の背中に身体が触れないように気を配った。
 今更紗也の着物が汚れる事を心配しているのではない。

 落ち着いたと思っていた鼓動が、どういう訳か先程から早くなっている。
 それを紗也に悟られたくなかったからだ。

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