月下の誓約
右近はおもしろそうに指摘した。
「じゃあ、なんで背中にべっとり血が付いてるんだよ」
「あれは不可抗力」
「じゃあ、なんでおまえ赤くなってんの?」
「これは返り血」
涼しい顔で否定する和成を、右近はニヤニヤしながら黙って見つめる。
和成の後ろから紗也が覗き込んできた。
「さっきの和成? 何わめいてるの?」
「なんでもございません。右近が戯れ言を申すものですから」
「変わり身早すぎんだろ」
呆れたように和成を一瞥した後、右近は紗也に向かって姿勢を正した。
「紗也様、私はそろそろ自分の持ち場に戻ります。
和成の事、よろしくお願いします」
深々と頭を下げた右近は二人に背を向ける。
「右近、門の見張り助かった。礼を言う」
和成が声をかけると、右近は軽く手を上げてそのまま立ち去った。
紗也はキョトンとして右近の後ろ姿を見つめ続ける。
何をお願いされたのか、よくわからなかったのだ。