月下の誓約


 馬を戻し、宿舎に向かっていると、向こうから怒気を孕んだ声が呼び止めた。


「和成!」


 声の主は塔矢だ。
 和成は側にいた紗也をその場にとどまらせ、自分は三歩前へ出て歯を食いしばる。

 塔矢は大股で歩み寄ると、目を閉じた和成の頬を平手で思い切り打った。
 打たれた頬がみるみる赤く腫れ上がる。

 項垂れた和成の胸倉を掴んで引き寄せると、塔矢は至近距離で怒鳴りつけた。


「おまえの仕事は何だ?!」


 消え入りそうな声で和成は答える。


「紗也様の護衛です」

「このような失態、断じて許されるものではないぞ!
 わかっているのか?! おまえは国を潰しかけたんだぞ!」

< 92 / 623 >

この作品をシェア

pagetop