月下の誓約
しばらくそのまま立ち尽くしていると、突然胸の鼓動がドクリと跳ねた。
背中に紗也が縋り付いて来たのだ。
「紗也様? いかがなさいました?」
振り向こうにも紗也は背中にしがみついて離れない。
仕方なく首を巡らせて肩越しに問いかけた。
「どこかお体の具合でも……」
言いかけた言葉を、和成は途中で飲み込む。
微かな嗚咽が漏れ聞こえてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
嗚咽混じりに小さな声が何度も繰り返す。
和成は自分の足元に視線を落とした。
「あなたが謝る必要はございません」
苦い思いが胸に広がる。
こんな事なら司令所に待たせておくべきだったと後悔した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
和成の背中にしがみついて、身体を震わせながら紗也は呪文のように繰り返す。
「……泣かないで下さい……」
自分の失態で紗也が泣いているのかと思うと、和成の胸は痛んだ。