ジャスミン【短編・完】
「もう吹っ切れたって、言ってるでしょ?聞かないでよ。」
そういいながら何もない首すじに手を伸ばす。
…ことのくせ。
「……ムカつく。」
「はあ?」
「ことも、嘘つくな。」
「……吐いてない。」
「強情。」
「なんなの、」
ことをはじめて見た時、その首には細っこいシルバーのネックレスがあった。
指にも薄いピンクの華奢なデザインのリングがあった。
照れた時はリング、嘘をつく時はネックレスを触る癖があった。
雨の中でことを車から落としておいてった彼氏からもらったそれを、ことはもうつけてはいないけど、一度身に着いた癖は消えない。
鎖骨の間の窪みのあたりに触れていた手を取った。
「…なに。」
「こと、嘘つくの下手くそ。」
「そんなわけない。」
「…今度、ことに花買ってきてあげる。」
「花?」
「そ。ジャスミンの花」
「…どうやって飾るの、それ。」
「聞いて来る。」
強情な彼女が、素直になれるように。
俺、ずっと待ってるから。