【続】隣の家の四兄弟
その質問で、見上げていた顔を元に戻す。
けど、聖二は変わらずタバコを咥えて、ぼーっと空を眺めたまま。
「部屋にいるけど……」
ていうか、ここにいることを知られたくなくて、こっそり出てきたのは私だから、なにしてるかまでは知らないし。
取り留めのない質問だったんだ、とは思うけど、聖二の意図が読めなくて、私は首を傾げた。
「……そ」
今夜もやっぱり、変わらない聖二。
素っ気ない返事と仕草に、今日はツキン、と胸が軋むのは、あの彼女の存在があるからだ。
ほんの少し、きゅ、っと唇を噛んで、聖二の顔を見つめていたら、不意に聖二が振り向いた。
「お前…………」
「?」
急に目が合うと、驚いてしまう。
瞬きもせず、聖二の様子を窺って、言葉の続きを待ってみても、全然聖二は口を開かなくなった。
不思議に思い始めたときに、ふいっと顔を逸らされた。
「……いや。お子様は早く寝ろ」
「なっ! なによぅ!」
私はその恒例の憎まれ口に、瞬時に対応できず。
ぶつぶつと、聖二に聞こえないくらいの文句を呟きながら背を向けた。
部屋に入る前に、ピタッと止まってぽつりと言う。
「……おやすみ」
窓の前に立ってしまえば、仕切りが死角になってしまうから聖二の顔なんか見えない。
だけど、静まり返った夜のベランダでは、この小さな声はちゃんと届くことをお互いに知ってるから。
「……またな」
その言葉を胸に、私はリビングへと入った。
結局、いつもくだらないことは口にしてても、肝心なことはなかなか声に出せないのかも、私……。
そんなに気にすることなんかじゃないのに。
だって、アキラと聖二がふたりきりだったわけじゃないのは、綾瀬家兄弟が証明してるし。
でも、頭でわかってても、心が納得しない場合ってある。
「――さっきの、なんだったんだろ……」
「お前」。
そう言い掛けて止めたであろう言葉の続きも気になって。
『きっとそんな大した話じゃないんだ』。
そう言い聞かせて、私は布団に潜り込んだ。