【続】隣の家の四兄弟
がっかりしたような目と、溜め息。そしていつまでも名残惜しそうに携帯を手にした姿が、ぼくの心になにかを残す。
「…………」
くるりと態勢を変えて、ドアの横の壁に背を預ける。
手に取るようにわかるよ? その着信がセイジであって欲しかったんでしょ?
アキラの存在が、ミカを少なからずとも傷つけた。
アキラも悪気があってしたことではないんだけど、妹であるアキラよりも、ぼくはミカを気に掛けてた。
……大体。だいたい、なんで、セイジはあんなふうにミカを放っておくんだろう。
あんなふうにイタリアでしてたら、女性は誰も寄りつかなくなるよ。
でも、あれが日本では普通なのかな?
昨日の様子も、そんな感じだったし。
あれ? だけどチビコウとかミナトとかは結構グイグイ押してる感じしてたけど。
だったらセイジが“そう”ってだけか。
……二人はどのくらいの付き合いなんだろう。
ただ単純に気になった。
僕が知ってるミカは、表情がくるくると変わって、反応も大きくて面白い。
そして、一人の世界に入ることも多くて、それが実際に口から出てることが気付いたときの慌てっぷりといったらない。
そんなミカだけど。
あんな嬉しそうな顔をして、ものすごい苦しそうな顔をする。
そんなの、見たことない。
――って、ここに来たのが昨日のことだから当然だよな。
ポケットに入れていた、新品の携帯を取り出した。
今日、ミカに付き合って買った携帯電話。
よくよく考えたら、個人的に携帯なんて持つ必要なかったのに。
確かに仕事の連絡は不便だけど、持ってきたパソコンにスケジュールのメールが届けばあとはなんとでもなるし。
幼馴染と再会したっていっても、ほんとにすぐ隣なんだから電話なんて本当は要らなかったとさえ思う。
カチッとホームボタンを押して、連絡先を表示する。
そこには【コウ】と【ミカ】だけ。
女の子が泣きそうにしてるところに遭遇したら、なにか手伝ってあげるっていうのが自然なこと。
そうやって今まで来たんだから、これも別にぼくにとっては普通のこと。
なぜかそんなことを心の中でいちいち確認してから、手にあるスマホを耳にあてがった。