【続】隣の家の四兄弟
『オナカ空いたぁ』
この声って……。
「ち、チハル……?」
何とも間の抜けた第一声は、間違いなくチハルだ。
電話の主がチハルってわかると、強張った表情が元に戻った私は、力が抜けたようにトスン、とまた椅子に座る。
「もう。びっくりしたじゃん。誰かと思ったよ」
『あーごめんね』
「え……?」
今、「ごめんね」ってあっちの方からも聞こえなかった?
リビングの方に視線を向けて声を上げると、ドアの隙間を少し開けて現れたチハルが携帯を耳にあてていた。
「なに……家ん中で電話してるの……?」
『……あは。膝、ダイジョーブ?』
『膝』って……。
「ちょっと、チハル! いつから見てたのよっ」
『ちょっと前からー。ごめーん』
「『ごめーん』じゃないっ。もう電話はいいでしょっ」
眉尻を下げて、ヘラっと笑うチハルを追いかけるようにリビングに出た。
見られてたなんて知らないし! なんか、すっごい恥ずかしいじゃん!
恥ずかしさのあまり、チハルの胸を結構な力でポカスカ叩く。
「痛い痛い」っていうけど、笑ってるチハルを見る限り、全然堪えてなさそうだ。
そんなことをしてると、チハルのお腹が音を上げた。
「……お昼、本当に食べてないんだ」
「うん。ミカと食べようと思って」
「……別に、気なんて遣わなくてもいいのに」
「だって女の子と食べたほうが美味しいに決まってるデショ」
ふいに顔を上げたら、気付けば私の手首をチハルが握って見下ろしてた。
その向けられた笑顔が眩しくて……。
「ちょ、直視出来ない……」
時折感じる、“モデルオーラ”とでもいおうか。
それを発してるときのチハルには、一般人の私なんかが近寄っちゃいけないんじゃないかって思ってしまう。
「えー? なんで? もっと見てよ」
「はっはぁ?! ヘンタイッ」
「『ヘンタイ』ってナニー?」
ぎゃぁぎゃぁと自分の家で騒ぐのはいつ振りだろう。