【続】隣の家の四兄弟


――結局。
今すぐにでもなにか食べたそうなチハルには、蕎麦を茹でてあげた。
ついでにもちろん自分も食べる。


「“ソバ”! 食べたことあるー」
「天ぷらとかあれば豪勢なんだけどね」
「ダイジョウブだよーこれで」


美味しそうに蕎麦を頬張るチハルを見る。

顔立ちが整った人は、なにをやっても、なにを食べても絵になるんだなぁ。
考えたら、こんなふうにチハルと向かい合って蕎麦をすする、だなんて、きっと羨ましがられることなんだよね。


それにしても……。


「上手」
「なに?」


ぽつりと口から出てしまった言葉にチハルが反応する。
私はいつものクセで出してしまった、と気付くと、戸惑いながらぼそぼそと答えた。


「あ、や……その、箸の使い方。とか……蕎麦の食べ方、とか……。正座してるし……」


私の言い分を聞いたチハルは、箸を置いてニコリと笑った。


「まーね。曲がりなりにも日本(ココ)にいたわけだし。それに一応、母親は日本人なわけだし」


ああ、そっか。しかもアキラまで今日本にいるなら、そういう文化とか自然と入ってくるよね。


ひとりで納得して小さく頷いていると、チハルの視線がずっとこっちに向いてるのに気付いた。

透き通るような茶色の目で見つめられると、本当にそのガラスのような瞳に吸い込まれるんじゃないかって困惑する。


「……な、なに?」


絞り出すようにしてそう聞くと、パッといつものチハルの顔に変わって「ううん」と返ってきた。

それでもまだドキドキと余韻が残る。


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