製菓男子。
わたしが働きだした製菓店「アンティエアー」は車の通りが比較的多い県道沿いに建っている。
かつて個人経営の美容院が入っていた二階建ての廃ビルを再利用しているためか店舗が狭い。
一階にある販売スペースはお客さんが三人入ってやっとくらいだし、奥の厨房スペースは男ふたりが作業するには狭すぎて、ひとりはときどき二階を使っていたりする。
二階は今月からはじめたパン・ケーキ教室になっていて、真ん中にどかんと長机が置かれ、最大五人が受講できるようになっている。


そんな狭さだから、わたしなんて必要ないと思うのだけれど、その認識は甘かった。
販売スペースの壁一面に商品が溢れ、それが一日で完売してしまう。
作る量が少ないわけではなくて、作っても作ってもどういうわけだか足りなくて、息切れを起こしてしまいそうなほど人気になってしまった店らしい。
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