製菓男子。
「い、いらっしゃいませ」


開店時間は十一時からとなっている。
待ってましたと女性客がひとり、またひとりと店内に入ってくる。
そしてチラリとレジ奥に見える厨房をのぞき、ときにじっくり眺めて、商品を籠の中に入れていく。
レジには否応なくわたしが立っているわけで、お客さんは「邪魔だ」と言わんばかりの顔をしてその籠を無愛想に差し出す。
接客が不慣れな上にデジタル機具が苦手なわたしは、レジ操作にもたついてしまう。
そして欠点を見つけ喜ぶ小姑のように、お客さんはわたしを攻撃してくる。


「何分かかっているのよ。後ろつっかえていますよ。見えないんですか?」
「申しわけありません―――」


謝罪を繰り返し、どうにか次の方に移る。
そして次ぎの方も声には出さないものの紫色の不穏なオーラを出してわたしを急かす。
そうするとますますパニックになってお釣りを間違える。
「ごめんなさい」と謝るわたしに、「ごめんですめば警察はいらないのよ?」と顔はにこやかなのに鋭利な口調で言われ慄く。


その繰り返しが一時間くらい続き、お昼をすぎたあたりで落ち着いてきた。
そうしてくると、作り手のほうも幾分か余裕が出てくるようで、商品陳列に塩谷さんが現れたりする。
彼はこの製菓店を営むひとりで、主に焼き菓子を作っている人のことだ。


塩谷ミツキさんの作り出すマフィンやケーキ、タルトなどは文句なしでおいしい。
バターや生クリームを使わず身体にやさしい材料だけで作られた焼き菓子は素朴で、人の心をほっこりとほどき魅了する。


しかし魅了するのはお菓子だけではないらしい。


美男に映るらしい兄の友人。
そのひとりである塩谷さんも人さまから騒がれる外見を持っている。
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