製菓男子。
甘栗を食べたあとみたいにほくほく喜んでいると、帰宅してすぐに目ざとく傘を見つけた兄が「それなに?」と睨んできた。
わたしの帰宅が遅くてなのか、それとも外出したことが心配だったのか、玄関でぺったり座りながら待っていた。


「なにって聞かれても……」


見間違えることなくそれは「傘」であり、それ以上でも以下でもない。
高熱を出しているから、わからなくなってしまったのだろうか。


「――つしていくのか?」


よくわからない言葉を発している兄に、熱で幻覚でも見ているんじゃないかと心配になる。
わたしは兄のおでこに触れようと近づくと、兄はわたしの二の腕あたりを掴んで引き寄せた。
瞬間的だったので、わたしはどうすることもできずに抱きしめられた。


「オレから、離れてくんじゃねえ」


兄は高熱により、わたしを現在おつきあいしている彼女と間違えている。


(芸能人並にちやほやされてるんだから、いないわけがないっ!)


そうでなければ、わたしを抱きしめる、という行為には及ばないはずだ。
傘は浮気の決定的な証拠みたいな感じで詰め寄ったに違いない。
兄は「浮気」という言葉を見るのも、自分で言葉に出すのもだめなくらいの潔癖で、兄は柄にもなく涙が出てしまう。


「ちょっとっ!」


兄の手がちょうどブラのホックの位置に回され、服ごしに外された。
滑るように服の裾から兄の手が入ってくる。
わたしのほうが風邪を引いたみたいにがたがた震えだし、身体をぎゅっと小さくする。
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