製菓男子。
「チョコレートスコーンが焼きあがりました」


塩谷さんが手にしている籠いっぱいのスコーンは焼き立てだからか梱包されておらず、白い油紙でくるまれている。


「おいしくできていますよ」


その言葉なのか、それとも塩谷さんの登場なのか、女子高生はそのお菓子に釘づけになっている。
その隙に塩谷さんは楯になるように、女子高生からわたしをそっと隠してくれた。


塩谷さんの大きな背中から甘いチョコレートの香りが漂う。
お菓子の香りは、張り詰めた空気をほどいてくれる魔法みたいで、滲んでいた涙がぽとりと落ちた。


(また守られちゃった。これで何度目だろう)


塩谷さんの陰に隠れ続けるわけにはいかない。
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