製菓男子。
「涙のあとがある」


慌てて身を引くと塩谷さんは苦笑した。


「傷つくなぁ」


傷つけるつもりなんてひとつもなくて、でも、どうしていいかわからなくて、思い出したようにまたひとつ雫が頬を伝っていく。


「あ、ごめん。泣かすつもりじゃなかったんだけど」


泣きたいわけじゃないのに、泣いてしまって、止める手段がわからない。


(それもこれも、全て、兄さんのせいだ)


兄がいなかったら、わたしはずっと人に関わらず家にこもっていられたし、苦手なこともいやなこともやらなくてすんだ。
得意なことは得意な人にやってもらって、不得手な人は不得手らしいことをしていればいい。
どうしてこんなに悲しい思いをしなくちゃいけないんだろう。
< 16 / 236 >

この作品をシェア

pagetop