製菓男子。
「っ、あぶない」


硬く目を瞑っていたら、背中に体温を感じた。
耳に触れるような位置で宮崎さんの声がして、身体が受けるべき衝撃をそこがひとりで受けている。
じんじん痛くて、じんじん熱い。


「大丈夫?」


硬直しながら頷く。
こうやって背中に体温を感じるのは、変質者に羽交い絞めされたとき以来で、対応ができない。


「寒い? 震えてる―――」


助けてもらったのに、これは失礼な態度。
とまれ、とまれと脚立を掴む手に念じる。
すると宮崎さんはわたしごと脚立をもとの位置に直し、店内へ戻ってしまった。
そしてその数分後、宮崎さんは薄手のジャケットを持って出てきた。


「どうぞ?」


そう言って宮崎さんはわたしに羽織らせた。
ジャケットは明らかに男性もので丈が長い。
宮崎さんが店の往復で着ているだけなのだろうけれど、ハニートーストのような甘い香りがする。


「ミツキ、女の子にやらせちゃだめ」


宮崎さんはわたしの背中をそっと押して店内に入った。
一心不乱に換気扇の掃除していた塩谷さんは「気づかなくてわるかった」と作業を一時中断して、トレーにマグカップをのせてわたしに紅茶を渡してくれた。
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