製菓男子。
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レッスンが終わって、受講生を送り出したのが四時すぎ。
片づけをしていると、チャイムが鳴った。
忘れ物だろうかとドアを開けると、現れたのは藤波さんだった。


「どうしたの?」
「塩谷さんから、ここにいるって聞いて」


藤波のことを聞くと「早く帰ってきた父とバトンタッチしてきました」と言った。
普段はそんなことをしない人なのだが、交際相手との外出のあとは決まってやさしくなるのだそうだ。
藤波家の家庭事情はよくわからないが、うちよりも、そしてミツキの家よりもきっと複雑に違いない。


「ツバサくんのお見舞いにつきあってもらえたら、うれしいなって思って」


藤波さんは節目がちにすると、頬に睫の影ができていた。
なんて長い睫なんだろう。


ただ見とれていただけなのだが、「昨日の今日なのに、ごめんなさい」と謝られる。


「わたし、図々しいですよね」   


藤波さんの瞳は水分量が多いためか、いつも涙の膜が貼ってある。
そのせいで、長い睫も夜露に濡れたようにきらきらしている。


「やっぱり、わたしのこと、こわい、ですか?」


藤波さんはごめんなさいと九十度くらいに頭を下げてから、背を向けた。
僕は出て行こうとする藤波さんの手首を掴んだ。
咄嗟のことといえ、手に触れなくてよかった。
また藤波さんが気に病むところだった。
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