製菓男子。
「違う。きれいだなと思って」
「きれい?」
「うん、瞳が」


タオル使う? と訊いて初めて、藤波さんは自分が泣いていることに気づいたようだった。


「この部屋、タオルいっぱいあるから平気」


タオルは手や洗い物を拭くためだけではなくて、今日は花柄形成の練習に使っている。
棚から常備してある未使用のタオルを藤波さんに手渡した。


「これもパンの香りがする」
「うちの実家パン屋だから」
「家で洗っているんですか? お店で使うのも全部?」
「そうだけど」


ミツキの負担がそうでなくても大きいから、そのくらいはしてやらないと。


「ああ、だから、パンの香りをたくさん吸い込んでいるんですね」


そうなんだろうか。
大概僕は洗濯機を回すだけで、あとは家族がやってくれている。
だからそのタオルは、太陽の下ベランダに干してあっただけだと思うのだが。


藤波さんは気持ちよさそうにそのタオルに顔を埋めている。
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