製菓男子。
「ツバサのとこ、行きたいの?」
「できれば、ですけど」


自信がなくなると、尻すぼみになるらしい。
行くか行かないか、揺らいでいるように思える。


「手ぶらで行く?」
「ああ、ごめんなさい!」


藤波さんは目を真ん丸くさせている。


「下はあった?」
「もう売り切れていましたよ。普段より早く閉められたようで、塩谷さんが換気扇磨いていました」


それはそうだろうと思う。
僕が藤波さんと会うことがわかっていたら、もっと種類が増えていたのかもしれない。


最近の自分はちょっと変。


藤波さんを「泣き虫でおばかな犬のような子」と思っていたはずなのに目で追いかけて、彼女の振る舞いのひとつひとつに自分の気分まで露骨に左右されてしまう。


僕は考えている振りをしながら、今も藤波さんの顔を観察するように見つめている。


「いつもパン教室のときに、お裾わけしてくれるじゃないですか。その、少しわけてもらえませんか?」
「持っていくほど量がない」


受講生が作るパンは全てお持ち帰りだ。
その代わり僕がレッスン中に見本で作ったパンを試食することになっている。
今日は人数が多かったから、残ったものは非常にわずかだ。
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