製菓男子。
「宮崎さん。オーブンを一四〇℃にしてもらってもいいですか?」


このお菓子は低温でじっくり乾燥焼きをする。
そうすることで、表面に焼き色がつかなくなる。


「今からで大丈夫?」
「そうでしたね、ガスですもんね! だからもう少しあとでも。わたしの知っているレシピは、冷蔵庫で寝かせる必要がないんですよ」


通常ポルボロンは冷蔵庫で生地を休ませる必要がある。
そんな疑問を藤波さんは先回りして答えをくれた。


「だから、ショートニング」


小麦粉に含まれるグリアジンとグルテニンは水を加えて捏ねるとふたつが絡みあってグルテンができる。
グルテンを多く含むものの例としてはパンやお麩が上げられるだろう。
このグルテンが多く含まれる状態で焼くと、焼き上がりが硬くなってしまう。
焼く前に生地を寝かせることによって、このグルテンの結合が切れ、噛んだときにさくっと脆い食感になる。
多めのバターやラードも同じような効果があり、それらを“ショートニング性”という。
ちなみにバターやラードは動物性の油脂で、ショートニングは植物性の油脂だ。


「僕も手伝う」
「いいんですか?」
「見てるだけだと手持ち無沙汰」
「じゃあ、バターとショートニングをやわらかくしてもらってもいいですか?」
< 202 / 236 >

この作品をシェア

pagetop