製菓男子。
藤波さんは小麦粉を粉ふるいにかけ、フライパンに移した。
用意したカセットコンロにそれを載せて、ほんのりベージュ色になるまで炒めた。
その間に僕はやわらかくなったバターらのボールの中に数回にわけて粉砂糖を振るい入れて混ぜる。
終わると卵黄を入れて、さらに混ぜる。
炒り終わった藤波さんが「代わりますよ?」と訊いた。


「いい、僕の仕事」


藤波さんはボールの中に炒った小麦粉、アーモンドプードル、そしてシナモンをふるいにかけながら入れた。
それらを粉気がなくなるまでまぜる。
非常に脆い生地なのでドレッジを使って纏める。


「わたしが作るときはいつも、ビニール袋に入れて平らにするんですけど」
「厚さは?」
「一センチくらいで大丈夫です」


僕は引き出しからジップロックを取り出して、藤波さんの言われたとおりにする。
その中にぼろぼろの生地を入れて麺棒で押すように平らに伸ばしていく。


「できたけど」
「じゃあ、袋を切って型で抜きましょうか」


藤波さんは手際よく抜いて、オーブンシートを敷いた天板に並べていった。
僕は終わる頃に予熱が終わるように、タイミングを計ってオーブンにスイッチを入れた。


「この時点でも粉砂糖を振るうんですけど、焼き終わっても振るうんです」 


そうすることによってお洒落度が高まるのだそうだ。
藤波さんから「お洒落」という言葉が飛び出すのが意外だった。


「何分?」
「うちのオーブンだと二十分ちょっとくらいなんですけど」
「わかった」


天板を受け取ってオーブンに入れる。
オレンジ色の光の中で生地がゆっくりと汗を掻きはじめた。
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