製菓男子。
「切り出すのは、たぶん、僕と藤波さんがこんなにも濡れているってことかな。透けてるし」


ゆるんだ腕の中、宮崎さんの視線を追うとわたしの胸もとだった。
ピンク色の下着がくっきり浮かんでいる。


(こ、こんなあられもない姿を!)


いつのまにか自由になった両手を伸ばして抱きついた。
ぴったりと宮崎さんの身体に密着する。


「藤波さんて、結構大胆」
「だって、見えちゃうから」


宮崎さんは「じゃあこうすれば見えない」とぎゅっと抱きしめ返した。


「ねえ、このまま話を訊いてくれる?」


このままもなにも、宮崎さんが開放してくれない限りこのままの状態に違いない。
しょうがないので、宮崎さんに身をゆだねることにする。
宮崎さんから、雨のにおいとほのかな酵母の香りがした。


「僕は藤波さんのこと、怒ってないし、恐くもないし、気持ちわるいなんて思ってなんかない。僕は口下手だから、むしろ、未来だとしても、僕の気持ちが藤波さんに伝わることが、うれしい」
「うれしい?」
「うん。僕の決断は、そのことだと思う。僕の手に、たくさん触れていいよ」
「たくさん?」


触れていいなんて、興味本位で言ってくる人が多かったけれど、宮崎さんの言葉はそれと、耳障りが違っていて、心地よくて。


(だけど、)


「たくさんなんて、わたしはいやです。人の未来を見続けるのは、辛いから」


わたしから出た否定の言葉は、折角の好意を無碍にしてしまう。
言葉は刃物で、使い方を間違えると傷つける道具にしかならなくて。
傷つけたらその分、自分に返ってくるか、離れていくか。




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