製菓男子。
ツバくんが思い出したように身体を捩って、引き出しから財布を取り出した。
ベッドに座りながらやるものだから、動きが不自然だ。


ツバくんは小銭入れの部分から取り出したのはコインではなく、青色の校章だった。


「やる」


私に向かって突き出された手。
その手の上でボタンの形をした青色がコロンと転がっている。


「私も持ってるよ?」
「でも今、してないし」
「そーいえば」


アンティエアーのお姉さんにもらった制服は校章がなかった。
今まで気を張っていたから、気づかなかったのだろう。


(お姉さんの校章は引きちぎられたって言ってたなぁ。こんなにかわいらしいのに、どうしていじめられていたんだろう)


話を聞く限り、私より凄惨だ。
私がそんな扱いを受けるようになって数ヶ月くらいだけど、お姉さんは十年以上いじめにあっていたなんて。


(私の方がまだマシと思えて、気が楽になるって最悪)


気落ちしていると、ツバくんの手がさらに突き出てきた。


「私の校章、家で保管してあるから平気だよ」


それは制服のように切られることはなかったから、今も家にある。


「じゃあ交換。生身のぼくはずっと傍にいられないけど、この校章がいつだってぼくの代わりにリコの傍にいるから。忘れないで、ぼくはいつだって、リコの味方だから、ひとりで悲しまないでね」


裏表のない無邪気な顔でツバくんが笑っている。


(どうして忘れていたんだろ。大切なものって目に見えることばかりじゃないのに)





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