製菓男子。
「明日また買いに来るのじゃだめかな?」


ミツキは少年の目線にあわせるように腰を折って、やさしい嘘をついた。
うちの店には百円で買えるものがない。
もし、言葉どおり明日来るのならば、ミツキはその百円という値段で、その価値以上のものを渡すのだろう。


「今から作るには難しくて、ごめんな」


店主としては真っ当な判断だと思う。
明日の分の材料を少し使って、少年のために焼くことができても、一度「特別」を作ってしまうと、それが「特別」にならなくなってしまう。
子供だからとか、知り合いだからとかそんなこと関係なく、たとえ「融通の利かない店」と思われてしまっても、ミツキは必ず断っている。
その姿勢はなかなか僕には真似できないが。


そんなミツキの心情をこの小学生が汲みとることなんてできるはずがない。
少年は完全に俯いてしまい、微動だにしない。
ミツキはどうしたらいいものかと僕を見た。


「あの!」


静寂を突き破るかのような不協和音で叫んだのは藤波さんだ。
今にも泣きそうな、そうでいて決意をしたような瞳を僕らに向けている。
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