製菓男子。
「これ以上言ったら、怒る」


叱られているのはわたしなのに、まるで宮崎さんのほうが傷ついているみたいな、そんな表情をしている。


「どうしてそんなこと言うの? ツバサもリコも、藤波さんのせいで傷ついたの? むしろツバサが入院したことで、リコが吹っ切れた。もしこの機会がなかったら、もっと拗れて、それこそ取り返しのつかないことになってたかもしれないのに。自分のこと、そんな風に思わないで?」


わたしに言い聞かすような宮崎さんの口調は、傘の色と同調するように聞えた。


傘は“ペールアクア”という色で、涙のような色をしている。
見上げた宮崎さんは決して、そんな表情ではないのだけれど。


(わたしが何度聞かされてもわからないから、宮崎さんの心が泣いてる。わたしが泣かせちゃったんだ)


わたしは泣くばかりで、泣き止ませる方法がわからない。
ひとつだけあるとしたら、宮崎さんの言葉や解釈を受け止めることだとはっきりわかる。
けれどわたしの、生まれもっての特異な体質から刻まれた価値観はそうそう崩れるものではなく、聞き入れることができない。
“でも”といつだって反論をしたくなる。
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